
【販売】スルメを見てイカがわかるか! (角川oneテーマ21)
かたやベストセラー『バカの壁』の著者にして唯脳論、脳化社会論の提唱者でもある養老孟司。かたや人間の意識上にあらわれる固有の質感、すなわちクオリアに注目した論考で知られる脳科学者の茂木健一郎。自然科学的、生物学的な知見をベースに近現代の人間と社会をユニークな視点で語る2人のコラボレーションが実現した。そんな本書の構成は、それぞれが単独で執筆した文章が両者の対談をプロローグ、エピローグ的にはさむというもの。多くの人にとって自明と思われている人間の世界認識の構造の不思議から、さまざまな話題が展開されていく。 書名の意味は、スルメという、死んで加工され静止した状態になっているものを見て、生きて動いているもとのイカがわかるのかという疑問を意味している。人間が種として社会化を進め、相互にコミュニケーションを行なっていく上でやりとりされる情報は、ほとんどこのスルメのようなものだ。一方で自然や世界のありようは、生きているイカ的な混沌そのものという性質を持っている。第3章「原理主義を超えて」ではダーウィンの進化論や資本主義が批判的に検討されているが、養老も茂木も、いわばこうしたスルメとイカのギャップを気にかけている点で共通している。 一方、そこからさらに展開された第4章「手入れの思想」では、手つかずの自然に人間が人工的にある程度の手入れをすることの積極的な意味が語られる。養老によれば、子どもの教育に関するあるべき態度がまさにこの手入れであり、茂木によれば自分自身の脳、無意識に対してさえも手入れをしていくことが重要だという。対象のすべてをコントロールするのではなく、適宜手入れをすることで調和をはかるかかわりあい方は日本人になじみやすい知恵だ、という指摘は興味深い。(松田尚之)
ページ数:185ページ
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カテゴリ: 本, 大人向け, エッセイ